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「よかれと思って」の前に 〜SOGIハラから考える、話す自由・話さない自由〜

職場の休憩時間、こんな会話を聞いたことはありませんか。

 

「〇〇さん、彼女いるの?」

「そろそろ結婚は考えてるの?」

 

親しくなりたい、気にかけている。そんな気持ちから出た言葉かもしれません。けれど、男性に「彼女いるの?」という問いには、相手が異性を好きになるという前提があります。恋愛や結婚について、職場では話したくない人もいるでしょう。

 

こうした質問が、直ちにハラスメントになるわけではありません。ただ、何気ない会話のなかで、相手が答えに困っていないかを考えることは大切です。笑って受け流していても、安心して話せているとは限らないからです。

 

SOGIハラとは

 

SOGI(ソジ)は、性的指向(恋愛感情や性的な関心がどの性に向かうか)と、ジェンダーアイデンティティ(自分の性別をどう認識しているか)を表す英語の頭文字です。これらに関する侮辱やからかい、本人が望まない暴露などを、SOGIハラと呼びます。

 

SOGIは、性的マイノリティの人だけに関わる言葉ではありません。異性を好きになる人にも性的指向があり、出生時に割り当てられた性別と自分の認識が一致している人にも、ジェンダーアイデンティティがあります。職場の誰にとっても、自分と無関係なテーマではないのです。

 

「新しいハラスメント」ではない

 

「また新しいハラスメントが増えた」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、性的指向やジェンダーアイデンティティをめぐって傷つけられたり、働きづらさを感じたりする問題は、以前からありました。

 

2020年に定められた厚生労働省のパワハラ防止指針でも、性的指向・性自認に関する侮辱的な言動や、本人の了解を得ずに他の労働者へ暴露する「アウティング」が、パワハラに該当すると考えられる例として示されています。

 

さらに、厚生労働省は、2026年10月からの指針改正により、カミングアウトを強要する行為だけでなく、禁止する行為もパワハラに該当し得ることを明確にしています*

 

なお、パワハラに当たるかどうかは、優越的な関係を背景としているか、業務上必要かつ相当な範囲を超えているか、就業環境が害されているかという三つの要素をすべて満たすかどうかで判断されます。

 

大切なのは、言葉や制度を知ることに加えて、日々の関わり方を見直すことではないでしょうか。

 

*参考
厚生労働省 都道府県労働局雇用環境・均等部(室) 事業主が講ずべきハラスメント対策パンフレット 4ページ https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001338359.pdf

善意のアウティングという落とし穴

 

ある管理職の方からの相談でした。

 

「部下から、同性のパートナーがいると打ち明けられました。チームのみんなにも理解してもらったほうが、本人も働きやすいと思うんです。本人のために、周囲へ伝えたほうがよいでしょうか」

 

部下を大切に思う気持ちが、まっすぐに伝わってきました。
ですが、それはそれです。
相談を受けた相談員は、こうお聞きしました。

 

「ご本人は、誰に、どこまで伝えることを望んでいますか」

 

少し間があって、「……それは、聞いていませんでした」。

 

周囲にどう説明するか、どんな言葉なら誤解なく伝わるか。その方は、そればかりを一生懸命に考えていたそうです。けれど、本人の意向をまだ確かめていなかったことに気づかれました。

 

相談員は、こうお伝えしました。

「支援の第一歩は、何かをしてあげることより、ご本人がどうしたいかを聴くことだと思いますので、ご本人のご意向をお聞きしてみてください」

 

誰に、いつ、どこまで話すかを決めるのは本人です。自分に打ち明けてくれたからといって、ほかの人に伝えてよいということにはなりません。力になりたいという気持ちを、本人が望む支援につなげるためにこそ、まず意思を確かめることが必要なのです。

 

反対に、本人が話したいと思っているのに、「職場では黙っておくように」と一方的に禁じることも、本人の選択を狭めます。話すことを求めるのも、話すことを禁じるのも、本人の意思を置き去りにしていないか、立ち止まって考えたいところです。

 

※この事例は、複数の相談事例をもとに、個人や組織が特定されないよう再構成しています。

 

本人の選択を尊重するために

 

では、職場で何ができるのでしょうか。まずは、次の三つから始めてみてください。

 

1、決めつけない
一つ目は、決めつけないことです。相手のパートナーの性別や、恋愛・結婚への考え方を、外見や自分の常識から判断しない。「パートナー」といった言葉を使う工夫に加え、私生活について答えない選択も尊重しましょう。

 

2、本人の意向を確かめる
二つ目は、打ち明けられたとき、本人が望む対応を確かめることです。「話してくださってありがとうございます」と受け止めたうえで、「わたしにできることはありますか」「この話を誰かに共有することを希望しますか」と尋ねます。支援のために情報共有が必要な場合も、その目的や相手、伝える範囲を説明し、本人の同意を得てから進めることが大切です。

 

3、詮索しない
三つ目は、詮索しないことです。話さない理由を説明してもらう必要はありません。打ち明けられた後も、興味本位で詳しく尋ねず、仕事上必要な配慮と、個人的に知りたいことを区別したいものです。

 

ハラスメントは、悪意がなくても、思い込みや善意から起こることがあります。「よかれと思って」と動き出す前に、ほんの一呼吸おいてみる。「これは、本人が決めることではないだろうか」と、自分に問いかけてみる。

 

話す自由も、話さない自由も本人のもの。その選択を尊重する関わりを、わたしも相談や研修の場で大切にしていきたいと思います。

 

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【執筆者】

相談員養成講座 特任講師 平澤 知穂

 

【プロフィール】

2000年にコーチとして独⽴、研修講師として活動開始。 2つの⼤学で通算14年間⼤学⾮常勤講師を務める。 企業や⾃治体、医療法⼈などにおいてハラスメント防⽌の活動を⾏い、2022年には個⼈のハラスメント年間相談対応が 600件を超えた。厚⽣労働省の設置するハラスメント相談窓⼝や、法務省の刑事施設における矯正教育関連プログラムの ファシリテーターを経験している。

 

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