コラム
- 相談
元厚労省ハラスメント相談員がランキング~相談者の不満トップ5
ハラスメント相談窓口に足を運ぶというのは、決して簡単なことではありません。
その一歩には、不安や迷い、さまざまな感情が伴っています。
だからこそ、私たち相談員が「どんなことで相談者が不満を感じているのか」「どこに戸惑いや心配があるのか」
を理解しておくことは、とても大切です。
これまで私が対応してきた相談や、研修現場で聞いてきた声の中から、相談者が感じがちな不満を5つにまとめてみました。
現場で活動されている皆さんと共有することで、少しでも支援の質を高めるヒントになればうれしいです。
1.「話を聞くだけで終わった」という不満
「勇気を出して話したのに、聞いてもらっただけで何も起きなかった」
こうした声は、相談後によく耳にします。もちろん、相談内容を丁寧に聞くことは基本です。でも、相談者は”その先に何があるのか”も知りたいのです。
■対応のポイント
話を聴いた後には、次にどうなるのか、どんな選択肢があるのかを具体的に伝えましょう。たとえば、「このあと管理部門に情報を共有します」「この内容は社内でこういうルートで扱われます」など、見通しを示すだけで、相談者の安心感がぐっと高まります。
2.「秘密が守られるか不安」という声
「この話が誰かに知られたらどうしよう…」という不安は、相談者の中に根強くあります。特に職場が狭い、人間関係が密接な環境では、ちょっとした情報の漏れが大きな影響をもたらします。
■対応のポイント
守秘義務があることだけでなく、「どの範囲まで共有されるのか」「記録はどこにどう残るのか」といった運用の具体も説明することが大切です。また、「本人の同意がない限り、勝手に第三者に話すことはありません」と明確にお伝えすることは、相談者にとって大きな安心になります。
3.「相談員って、ほんとうに中立なの?」という疑念
「相談員の立場が曖昧で、組織の味方なのか、私の味方なのか、よくわからない」という相談者の声も少なくありません。相談員の振る舞いが無意識に”組織寄り”に映ってしまうこともあるため、慎重さが求められます。
■対応のポイント
私たちは、
・中立的な立場でお話を伺っていること
・相談者の状況改善に向けた支援を目的としていること
・置かれているご状況やご心境を正確に把握するよう努めること
などの役割を言葉にして説明しましょう。また、相手の感情を正面から受け止める「それはつらかったですね」といった共感の言葉(講座では、相談者の気持ちを配慮した声掛けとして登場しました)も、中立性と信頼性の両立に役立ちます。
4.「対応が遅くて不安になる」という不満
「もう何日もたっているのに、何の連絡もない」こんな声が出てくることもあります。相談者にとって、1日1日がとても長く感じられていることを、私たちは忘れてはなりません。
■対応のポイント
事前に、調査や対応の見通しを伝えておくことが効果的です。たとえば、「調査には通常○週間ほどかかります」「進捗があれば、○日以内にご連絡します」などの説明があるだけで、相談者は状況を理解しやすくなります。途中経過を伝える姿勢も信頼に直結します。
5.「相談したことで、逆に悪化しないか不安」という恐れ
これは、非常に多くの相談者が抱える共通の不安です。「報復されるのではないか」「職場に居づらくなるのでは」等の思いが、相談そのものをためらわせてしまいます。
■対応のポイント
組織として「相談したことが原因で不利益が生じることはない」と明確に打ち出しているはずです。ですから、その原則をしっかり伝えましょう。また、「万が一そのような事態が起こった場合、どう対応するか」についても事前に話しておくことで、相談者は守られている感覚を得やすくなります。言葉だけでなく、「何かあればすぐに連絡してくださいね」という姿勢そのものが、相談者の支えになります。
こうしてふりかえってみると、相談者の多くが不安に感じているのは、「何が起きるかわからないこと」や「説明が足りないこと」なのだと改めて感じます。私たち相談員が少し意識を向けるだけで、防げる不満や戸惑いもたくさんあると思うのです。
正しい判断や迅速な対応ももちろん大切で、他方で「わかりやすく」「具体的に」「誠実に」関わるプロセスがあることで信頼構築が始まる、というのがわたしの経験からの実感です。
相談窓口は、相談者にとって最初の一歩を踏み出す重要な場所。その一歩が、問題解決への道を開くきっかけとなるよう、私たちも日々言葉に責任を持ち、学び続けて参りましょう!
私たちの真摯な対応が、多くの職場環境を変える大きな力になっていると信じています。
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【執筆者】
相談員養成講座 特任講師 平澤 知穂
【プロフィール】
2000年にコーチとして独⽴、研修講師として活動開始。 2つの⼤学で通算14年間⼤学⾮常勤講師を務める。 企業や⾃治体、医療法⼈などにおいてハラスメント防⽌の活動を⾏い、2022年には個⼈のハラスメント年間相談対応が 600件を超えた。厚⽣労働省の設置するハラスメント相談窓⼝や、法務省の刑事施設における矯正教育関連プログラムの ファシリテーターを経験している。
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