コラム
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「手柄を取る」ことはハラスメントなのか ~「よくあること」として根づいた職場で、人事はどう動くべきか
1.「手柄を取られている」という感覚が消えない職場
「自分の成果を上司に取られている気がする」
「評価の場では、上司の実績として語られてしまう」
こうした相談は、相談窓口や人事部では決して珍しくありません。
特徴的なのは、
・暴言や威圧はない
・露骨な嫌がらせもない
・日常の関係性はむしろ悪くない
というケースが多い点です。
さらにその会社では、
「上司が代表して評価されるのは普通」
「若手の成果は上司のもの」
といった価値観が、半ば慣習として共有されていることもあります。
このような環境では、人事が個別に介入しても、この課題はなかなか解消されません。
2.手柄を取ることはハラスメントにあたるのか
結論から言えば、「手柄を取る=即ハラスメント」とは言えません。
・上司が部下の成果を統合して報告する
・チームの代表として評価される
という行為自体は、職務上あり得るものです。
しかし問題は、
・部下の貢献が可視化されない状態が常態化している
・それにより、部下の意欲や協力姿勢が低下している
・評価やキャリア形成に不公平感が生じている
という影響が放置されていることです。
ハラスメントかどうかの白黒よりも、
「健全な協働関係が損なわれているか」という視点が重要になります。
3.「協力したい気持ちが薄れた」は、組織への警告
相談者が語る「もう、この上司のために頑張りたいと思えなくなった」
という言葉は、単なる愚痴ではありません。
これは、心理的な契約(この職場でどう扱われるかという期待)が壊れ始めているサインです。
・提案を控える
・情報共有を最小限にする
・責任ある役割を引き受けなくなる
こうした行動は、本人の問題というより、「報われない環境」に対する合理的な反応とも言えます。
4.「よくあること」という文化が、解決を難しくする
周囲から「そんなのどこでもある」「昔はもっとひどかった」と言われてしまう職場では、
個別対応は特に難航します。
先述のように、問題が「個人の不満」ではなく「組織の慣習」になっているからです。
この段階で人事が「あなたの上司に注意しました」「あなたの話はしっかりと聞きます」
と対応しても、相談者の中には「結局、この会社は変わらない」という諦めが残ります。
5.人事・相談員が相談者に伝えるべきこと
① 感情を正当化するが、被害認定は急がない
まずは、感情をきちんと受け止めます。
一方で、「それはハラスメントです」と即断する必要はありません。
(相談員や人事担当者が判断することではありません)
感じている影響を、組織課題として扱う姿勢を示すことが重要です。
② 個別問題ではなく「構造の話」として整理する
「誰が悪いか」ではなく、
・貢献が正しく見えにくい構造になっている
・評価のプロセスに歪みがある
と整理して伝えます。
これにより、相談者は「自分が弱いから、自分の考えがおかしいのではなかった」と理解しやすくなります。
6.手柄を取る上司への直接介入だけでは足りない理由
人事が上司本人に
「部下の手柄を取らないでください」と伝えても、根本解決にはなりませんし、新たなハレーションを引き起こすでしょう。
多くの場合、上司は
・自分が取っている自覚がない
・そういう会社文化だと思っている
・自分も同じ扱いを受けてきた
という背景を持っています。
そのため、個人の意識改革だけに頼る対応は限界があります。
7.必要なのは「社内の動き方」を変えること
① 評価・報告の“型”を変える
人事としてまず着手できるのは、
・会議資料に担当者・貢献者を明記する
・成果報告で「チーム」「個人」の内訳を求める
といった、可視化のルール化です。
「言ってくれれば評価する」ではなく、
「書かれていなければ評価できない」仕組みにします。
② 管理職層への翻訳
管理職研修などで、
「部下の貢献を伝えることは、マネジメント能力の一部、出来ない・やらない場合はマネジメント能力に課題があると評価する」
「手柄を分けることは、上司の評価を下げることではない」
というメッセージを、繰り返し伝えます。
慣習や美徳ではなく、スキルやルールとして位置づけることがポイントです。
③ 経営・上位層を巻き込む
この問題は、人事だけで抱えると必ず行き詰まります。
・経営会議で「協働を阻害する要因」として共有する
・評価制度の見直しテーマとして正式に扱う
など、組織レベルの課題として格上げすることが不可欠です。
8.まとめ:「よくあること」を変えられるかが分かれ道
手柄を取ることは、分かりやすいハラスメントではありません。
しかし、それを放置した職場では、
人は徐々に「協力しない」「期待しない」方向へ向かいます。
人事・相談員に求められるのは、白黒の判断ではなく、
「この組織で、誰が報われる設計になっているのか」を問い直すことです。
個人対応で終わらせず、構造と文化に踏み込めるかどうか。
それが、この問題をよくある話で終わらせないための分岐点になります。
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【執筆者】
代表理事 金井絵理
【プロフィール】
2021年に一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会を設立し代表理事に就任。「ハラスメントを解消し品性のある組織つくりを目指す」を理念としている。上場企業や自治体などで職場のハラスメント対策研修を行い、現在はハラスメント対策研修ができる講師の養成や、ハラスメント相談員の養成に注力している。
日本キャリアデザイン学会 正会員/国立大学法人小樽商科大学商学部企業法学科卒業/早稲田大学大学院 経営管理研究科 人材・組織マネジメント モジュール卒業(MBA)
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