コラム

  • 相談

事実確認で実現する公平な対応

ハラスメントの相談を受け、相談者の話を正確に聞き取った後に行う二次対応が「事実確認」。
相談者の話を正確に把握し、必要に応じて行為者や第三者に事実確認を行うことは、解決への第一歩です。
しかし、事実確認はデリケートなプロセスであり、適切に進めなければ当事者間の信頼を損なうリスクもあります。

今回は、事実確認の手順やポイントを具体例を交えながらお伝えします。

 
▶相談員としてのスキルを身につけたい方はこちら

1.事実確認の基本姿勢

ハラスメントの事実確認において最も大切なのは、「公平性」と「慎重さ」です。
相談者から話を聞いた際、感情的に共感したり、逆に行為者の立場に立ちすぎたりすることでバランスを失うことは避けなければなりません。

 

例)初動で気を付けたいこと

部下からハラスメントについて相談を受けた上司が、相談内容を聞いて「確かにそれは問題だ!」と判断し、自分の意見を付け加えながら行為者に事実確認を行いました。
しかし、その結果行為者から「決めつけられている」と反発を招き、状況が複雑化してしまいました。

 

このケースから学べるのは、人は「先入観を持つと、物事を偏った視点で見てしまう」ことです。
その結果、相手に「偏見を持っている」と受け取られる可能性があります。
だからこそ、一次対応の際は、「相談者の話を正確に聞き取る」ことが求められます。

2.事実確認の具体的な手順

(1) 相談者からの聞き取り

最初に、相談者から「何が起きたのか」を正確に把握することが重要です。
この際のポイントは、感情を共有しながらも、聞き漏れがないように丁寧に確認することです。

 

ポイント
・ いつ、どこで、誰が、何を、どのように行ったのかを確認する。
・ 「そのときどう感じましたか?」といった感情に触れる質問も忘れずに。
・ 記録を取る場合は「そのままの言葉」で記録する。

 

例)適切な質問の仕方
例えば、相談者が「先輩がいつも私に冷たくて」と言った場合、「冷たいとは具体的にどんな行為ですか?」と具体化を促す質問が有効です。
「毎朝、挨拶するが返事をくれない。他の人には挨拶を返している」という答えが返ってきた場合、それがどのように相談者の負担となっているのかも聞いておくと良いでしょう。

(2) 行為者への聞き取り

行為者に事実確認を行う際は、相手に「責められている」と感じさせない工夫が必要です。
中立的な言葉を選び、相談者の具体的な言葉を用いて「こういった指摘がありますが、事実としてどうお考えですか?」と尋ねると良いです。

 

ポイント
・ 感情的な表現や決めつけを避ける。
・ 可能であれば、事前に行為者への確認事項を整理する。

 

例)行為者が防衛的な場合
「その話、まったく身に覚えがない」と主張されたケースがありました。その際は、「身に覚えがない、ということですね」とまずバックトラックで受け止めた上で、「では、〇〇さん(訴えている人)がそう受け取られた原因に何か心当たりはありますか?」と質問を起こすことで、行為者が捉えている状況の把握が進みました。

(3) 第三者への聞き取り

場合によっては、当事者以外の第三者からの聞き取りも必要です。
この場合は「誰がどこまで事実を把握しているか」を慎重に見極める必要があります。

 

ポイント
・ 話を聞く範囲を必要最低限に留める。
・ 第三者にも中立的に聞き取る姿勢を伝える。

 

第三者への聞き取りが原因で情報が広まり、相談者が職場で孤立してしまうケースもあります。
このような事態を防ぐためには、聞き取り対象者を慎重に選び、必要最低限の範囲に留めることが重要です。
また、聞き取りの際にはその主旨を丁寧に説明し、聞き取った内容を守秘する必要があることを明確に伝えると良いでしょう。
これにより、当事者間の信頼関係を損なうリスクも減らすことができます。

 

※補足※ 「聞き取った第三者の名前を相談者に伝えてもいいの?」

原則として、第三者の名前は開示しない方が良いです。
その理由を以下にまとめました。

 

理由1:プライバシーの保護
第三者もまた、職場内での人間関係のひとりです。
名前を開示することで、相談者や行為者との間で不必要な軋轢が生まれる可能性があります。
プライバシーを守ることで、第三者が安心して正確な情報を提供できる環境を保つことが重要です。

 

理由2:公正性を保つため
名前を開示した場合、相談者が第三者に対して直接コンタクトを取ったり、第三者の意見を個人的に確認しようとするリスクがあります。
これにより、調査の公正性や信頼性が損なわれる可能性があります。

 

理由3:信頼関係の維持
第三者への聞き取りは「公平な事実確認」の一環です。
聞き取った内容を元に適切に対応するのは窓口担当者の役割であり、第三者の名前を開示しないことで、今後の聞き取りがよりスムーズに進む土壌を築けます。

 

理由4:不必要なトラブルの回避
名前を開示することで、第三者が相談者や行為者から責められるリスクや、感情的な対立が生じる可能性があります。

 

このようなトラブルは、調査を複雑にし、事案の解決を遅らせる原因となります。

 

〜例外的に名前を開示する必要がある場合〜

 

例外的に名前を開示する必要がある場合もあります。例えば以下のような状況です。

 

・法律的な観点で証言が求められる場合
 労働審判や訴訟の場面で、第三者が証人として招かれるケース。

・調査の透明性が求められる場合
 調査結果を共有する際に、第三者の関与が重要な役割を果たす場合。

 

これらの状況では、第三者本人に事前に了承を得た上で、相談者に名前を開示することが大切です。
このプロセスを丁寧に行うことで、第三者のプライバシーを守りながら調査を進めることができます。

3.事実確認の際に気を付けたいこと

(1) プライバシーの保護
ハラスメント事案は非常にセンシティブです。聞き取りの場はプライバシーが守られる環境を選び、記録も適切に管理します。

 

(2) 曖昧な表現を避ける
曖昧な表現は、後々のトラブルにつながります。「たぶん」「おそらく」といった言葉を使わず、具体的な表現で記録を残しましょう。

 

例)明確な表現の必要性
「なんとなく嫌な雰囲気だった」といった相談を受けた際、「嫌な雰囲気」とは具体的に何があったのかを掘り下げて確認することが必要です。
例えば「大声で叱責された」「みんなの前で名前を呼ばれた」といった行為が明確になれば、後の対応がしやすくなります。

4. 事実確認後の対応

事実確認が終わったら、関係者へのフォローを忘れないようにします。
相談者には「確認した内容をもとに、どのような対応を取るのか」を丁寧に説明し、行為者や第三者には「どのように再発防止に取り組むか」を共有します。

 

例)フォローが信頼に繋がる
ある相談者が「事実確認が進んだ後、全然何の連絡もなかった」と不満を持ったケースがありました。
進捗状況や対応方針をこまめに連絡することで、相談者の不安を軽減するよう努めていきます。
たとえば、「週に一度状況を報告」や「重要な進展があればその都度連絡する」など、具体的なフォローが信頼につながります。

 

〜事実確認は丁寧に、慎重に〜

事実確認は、ハラスメント対応の核となる重要なプロセスです。
相談者・行為者・第三者それぞれの話を中立的に聞き取り、具体的な事実に基づいて対応を進めることが求められます。
そして、事実確認だけで終わらせず、対応やフォローまでを丁寧に行うことで、信頼関係を築くことができます。

この記事でご紹介したポイントや例が、相談窓口担当者としての実務に少しでもお役に立てれば嬉しいです。

 

————————————————————————————————–

【執筆者】

相談員養成講座 特任講師 平澤 知穂

 

【プロフィール】

2000年にコーチとして独⽴、研修講師として活動開始。 2つの⼤学で通算14年間⼤学⾮常勤講師を務める。 企業や⾃治体、医療法⼈などにおいてハラスメント防⽌の活動を⾏い、2022年には個⼈のハラスメント年間相談対応が 600件を超えた。厚⽣労働省の設置するハラスメント相談窓⼝や、法務省の刑事施設における矯正教育関連プログラムの ファシリテーターを経験している。

 
▶相談員としてのスキルを身につけたい方はこちら

この記事をシェアする
FacebookX

お問い合わせ

個別研修を行いたい、社内規定を改定したいなどのご相談・執筆依頼・その他
こちらからお問い合わせください。