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面接でNG発言をしてしまう管理職・役員に頭を抱える――現場に響く「就活ハラスメント対策研修」の進め方

「毎年、面接官向けにマニュアルを配布しているのに、面接中の不適切発言がなくならない」 「『学生への配慮を』と注意喚起しているのに、聞き流されてしまう」 「役員面接が原因で最終選考通過者の4割が辞退した」 実はこれらは実際に当協会に寄せられたご相談です。

新卒採用や中途採用のシーズンを迎えるたび、現場の面接官教育に頭を悩ませている人事担当者は少なくありません。悪意があるわけではないのに、なぜか面接官によるNG発言は繰り返されてしまいます。なぜ人事からの注意喚起は現場の管理職や役員に響かないのでしょうか。
 

*2026年10月からは法改正により、企業に対して「就活セクハラ防止対策」が義務化されます。しかし就活で起きるハラスメントはセクハラにとどまりません。本稿では、セクハラ防止にとどまらず、管理職や役員をはじめとする面接官全員が知っておくべき「面接における就活ハラスメントへの実践的な対策」について解説します。

「配慮してください」という抽象的な注意は伝わらない

面接前に行う役員や管理職へのオリエンテーションで、「就活生のプライバシーに配慮しましょう」「差別的な発言はやめましょう」といった呼びかけをしていませんか。実は、こうした抽象的な言葉は現場の面接官には届いていない可能性があります。

具体例が分からない人に、抽象的なスローガンを投げかけても意味がないからです。

 

悪気があって失礼な質問をする面接官は、まずいません。 「うちの部署はタフだから、家庭環境や私生活を把握しておかないと心配だ」 「女性活躍を応援しているからこそ、今後の働き方について聞いておきたい」 このように、面接官本人は「親身になって」「良かれと思って」質問しています。

具体例を示さずに「プライバシーへの配慮」とだけ伝えると、解釈が個人の感覚に委ねられてしまいます。その結果、「失礼のないように配慮した上で聞いたからセーフだ」「応募者を思っての確認だから問題ない」と自分の中で正当化してしまうのです。

研修で必要なのは、精神論ではありません。「言ってはいけない具体的なセリフ」「ダメな理由」「正しい言い換え」をセットにして、行動ルールとして明確に伝える必要があります。

昔は当たり前、今は即アウト」な質問のリアルな現場例

40代以降の管理職世代が就職活動をしていた頃と現在とでは、面接はもちろん採用手法が根本から変わっています。研修で最初に行うべきは、面接官自身の「昔の就活経験」をリセットしてもらうことです。

特に管理職が「悪気なく口にしてしまう」代表的なNG質問と、その理由を見ていきます。

 

【家族や生い立ちについてのNG例】
・「お父さんはどんな仕事をされているの?」
・「ご実家は持ち家ですか? 一軒家?」
・「一人っ子? それとも兄弟はいる?」

面接官は「育った環境を知って人柄を見たい」と言いますが、これらはすべてNG事項です。本人の努力ではどうにもならない親の職業や資産状況、家庭環境で合否を判断することにつながるためです。どうしても転勤の可否を知りたいなら、「全国転勤がありますが問題ありませんか」と業務条件をそのまま聞けば済む話です。

 

【性別やライフプランについてのNG例】
・「いま付き合っている彼氏(彼女)はいるの?」
・「結婚しても仕事を続ける予定ですか?」
・「女性が多い職場だけど、うまくやっていける?」

特に女性候補者に対して結婚や出産の予定を聞くのは、明確な性差別(男女雇用機会均等法違反)です。「うちの部署は残業や出張が多いから心配だった」という釈明は通りません。確認したいなら、性別に関係なく「繁忙期には月20時間程度の残業が発生しますが、対応可能ですか」と業務条件を直接提示して合意を取るべきです。

 

【思想についての質問のNG例】
・「尊敬する人は誰ですか」
・「最近読んで感銘を受けた本は何ですか?」
・「新聞は何を読んでいますか」

面接の定番とされてきたこれらの質問も、見直しが必要です。思想・信条・宗教・支持政党などは憲法で保障された個人の自由であり、どんな考えを持っていても採用の合否に影響させてはならない領域です。 もし学生が「尊敬する人」として、特定の政治家や宗教家、偏った主張を持つ思想家の名前を挙げたらどうなるでしょうか。面接官の個人的な好みや政治信条が入り込み、「この学生とは合わない」と無意識に不合格にしてしまう危険があります。「愛読書」も同じで、特定の思想が反映された本を挙げた際に偏見が入りやすくなります。 そもそも、「尊敬する人」をスラスラ答えられたからといって、仕事の成果と何か関係があるでしょうか。 「思考力を知りたい」「価値観を知りたい」と言う面接官もいますが、この質問では仕事の能力は見抜けません。業務に関係のない質問を惰性や興味本位で聞くことはやめるべきです。

 
参考:厚生労働省「採用選考字に配慮すべき事項」https://kouseisaiyou.mhlw.go.jp/consider.html

属性ではなく「過去の行動事実」を聞く

不適切発言が起きる根本的な原因は、面接官が「何を聞けば相手の能力が分かるのか」を知らない点にあります。評価の軸があいまいだからこそ、手近な雑談や生い立ちの話に頼ってしまうのです。

面接で知るべきなのは、学生の家庭環境やプライベートではなく、「自社が求める仕事の力を発揮できるかどうか」です。知りたい能力が明確であれば、余計な質問は一切不要になります。

 

【具体例1:ストレス耐性を知りたいとき】
・NGな聞き方
「親から厳しく育てられた?」
「部活で理不尽な上下関係に耐えた経験はある?」
・OKな聞き方
「これまでの学業やアルバイトで、予想外のトラブルに直面した経験はありますか? そのとき、ご自身でどう判断し、具体的にどう行動して解決しましたか?」

本人が取った行動のプロセスを聞くことで、困難に対して冷静に対処できる人かどうかが客観的に分かります。

 

【具体例2:学習意欲や向上心を知りたいとき】
・NGな聞き方
「最近どんな本を読んだ?」
「座右の銘は何?」
・OKな聞き方
「直近の1年間で、自分の意志で新しく学び始めたスキルや知識はありますか? なぜそれを学ぼうと思い、どのように時間を確保して継続しましたか?」

どんな分野であれ、「自発的に目標を立てて行動に移せるか」という再現性のある行動パターンを確認できます。

「どんな場面で、どう考えて、どう行動したか」という過去の事実を聞く手法(行動面接)を導入すれば、プライベートを探るようなNG質問は自然と消えていきます。

「仕事に関係のないことは聞かない」が鉄則

研修で最も強く徹底させるべき基本ルールは、「業務に関係のない質問は一切しない」ということです。面接トラブルの多くは、「アイスブレイク(緊張ほぐし)」の雑談から発生します。

 

・「今日はどこから来たの? 実家暮らし?」
・「土日は何をして過ごしているの? 趣味は?」
・「スポーツやってたんだ、身体もがっちりしていてモテそうだね」

面接官にとっては気軽な世間話のつもりでも、学生にとっては「選考の場」です。「変な答え方をしたら落とされるかもしれない」というプレッシャーがあるため、失礼な質問や答えにくい私生活の話をされても、無理して笑顔で合わせるしかありません。

面接官が「気さくに雑談した」と思っていても、学生側は「立場を利用されてプライベートに踏み込まれた」と受け止めます。これが就活ハラスメントの典型的なパターンです。

 

緊張をほぐすための声かけは、個人情報に触れなくても十分にできます。

・「会場まで道に迷わずに来られましたか?」
・「部屋は寒くないですか(暑くないですか)」
・「(オンラインで)音声の聞こえ具合は大丈夫ですか?」
・「緊張すると思いますが、うまく話そうとせず、ご自身の言葉でゆっくりお話ししてくださいね」

こうした進行上の気配りを通して、アイスブレイクをすることは十分に可能です。

聞き流す面接官に伝える「内定辞退」と「SNS炎上」の現実

ここまでルールを説明しても、一部の管理職は「形式的なマナー教育だろう」「雑談くらいで大げさな」と受け流したり、研修が上の空だったりする人も中にはいます。不適切発言がもたらす「実害」をはっきりと伝える必要があります。

 

【優秀層ほど即座に内定辞退する】
現代の就活生は、面接官の言動を「企業のカルチャーそのもの」としてシビアに観察しています。面接でプライベートに踏み込まれた学生は、「この会社は時代遅れだ」「社員の人権意識が低く、入社したらパワハラを受けそうだ」と即座に判断します。
冒頭でお伝えした「役員面接が原因で辞退率4割」という相談事例も、まさにこの不信感が招いた結果です。他社と競合している優秀な人材ほど、違和感を覚えたら辞退していきます。人事や現場が何十時間もかけて口説いてきた努力が、面接官の無神経なたった一言で水の泡となります。

 

【SNSでの実名・社名告発と拡散リスク】
面接室は密室ではありません。学生は面接が終わった直後、スマートフォンからオープンチャット、X(旧Twitter)、就活生向け掲示板にリアルタイムで書き込みます。

「◯◯商事の二次面接で、恋人の有無や結婚の予定を聞かれた。気持ち悪いから辞退する」
「面接官の◯◯部長、親の職業や持ち家かどうかを根掘り葉掘り聞いてきて最悪だった」

こうした投稿は一瞬で拡散されます。一度出てしまった内容は検索サジェストや掲示板に残り続け、その先何年も採用活動に悪影響を与えます。学生への就活ハラスメントは、新卒採用の失敗にとどまらず、顧客離れや企業ブランドの失墜など経営リスクにも及びます。

「社長・役員には研修をしない」という致命的なリスク

面接官研修を実施する際、現場で非常によく見られるのが「一般管理職には受講させるが、社長や取締役などの経営陣は対象から外す」という運用です。

人事担当者側が「トップに対してこんな基本的な研修を案内するのは失礼にあたるのではないか」と過剰に忖度してしまったり、役員側から「自分は人を見る目がある」「長年面接をやってきたから今さら研修など不要だ」と突っぱねられたりすることが主な原因です。

 

しかし、これこそが企業にとって非常に危険な落とし穴です。

最終面接を担当する経営層ほど、現場のルール変更から取り残され、昔の成功体験や個人的な価値観のまま面接に臨みがちです。その結果、現場社員や人事面接官が細心の注意を払って繋いできた優秀な候補者に対し、最終の役員面接で「女性だけど夜遅くなっても平気?」「君の親御さん、うちの取引先の〇〇社じゃない?」といった昔ながらの感覚の質問を最終局面であっさり口にしてしまうケースが後を絶ちません。

経営トップの不用意な一言は、現場の面接官以上に強烈なインパクトを学生に与えます。「社長自身があの認識なら、会社全体が時代遅れな体質に違いない」と確信され、最終選考での辞退決定打となるばかりか、「社長から直接ハラスメント質問を受けた」とSNSで告発される最悪の事態を引き起こします。

自社のブランドと採用活動を守るためには、「トップだからこそ率先して最新の採用コンプライアンスを学ぶべき」という共通認識を持ち、役員層を例外にしない研修設計を行うことが不可欠です。

まとめ:面接官研修は「会社を守るリスクマネジメント」

面接官を務める管理職や役員を含むすべての面接官は、「自分は会社の看板を背負い、すべての就活生(約50万人)が見ているSNSの前に立っている」という当事者意識を持たなければなりません。

就活ハラスメント対策は、面接官の自由を奪う窮屈なルールではなく、余計な偏見を捨てて自社に合う優秀な人材を正しく見極めるための実務スキルです。

人事としては、「注意してください」で終わらせず、「何がNGで、どう聞き替えるべきか」という実践的なノウハウを研修でしっかり伝えていくことが、会社と候補者の双方を守る確実な防衛策になります。

 
 
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【執筆者】

代表理事 金井絵理

【プロフィール】

2021年に一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会を設立し代表理事に就任。「ハラスメントを解消し品性のある組織つくりを目指す」を理念としている。上場企業や自治体などで職場のハラスメント対策研修を行い、現在はハラスメント対策研修ができる講師の養成や、ハラスメント相談員の養成に注力している。

精神保健福祉士/日本キャリアデザイン学会 正会員/国立大学法人小樽商科大学商学部企業法学科卒業/早稲田大学大学院 経営管理研究科 人材・組織マネジメント モジュール卒業(MBA)

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