コラム
- 職場のハラスメント
世代間ギャップが生む小さなすれ違い~その違和感が「火種」になるかも~
ベテラン 「最近の若手は指示を細かく聞きすぎる」
若手 「ベテラン層は話が長くて核心が見えない」
このような世代間ギャップはどの職場にも存在します。
実はその小さな考え方の違いが、ハラスメントの火種になることもあります。
SNSでも、職場における若手とベテランの価値観のズレに対するコメントをしばしば見かけます。
それだけ、多くの人がなんとなくモヤモヤしているのです。
このコラムでは、世代間の価値観や働き方の違いがどのように誤解を生み、
どのようにハラスメントの問題につながってしまうのか、事例を交えて解説します。
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若手とベテラン、その違いはどこから生まれる?
若手世代の特徴(20〜30代前半)
・学校の教育方法や、SNS上で炎上しないため丁寧に説明することが見についているため
「根拠」「理由」を重視する。曖昧な指示を不安に感じる。
・学校の教育方針やのSNSネイティブで世代関係なくコミュニケーションを取ることに
慣れているため、過度な上下関係を好まない
ベテラン世代の特徴(40代〜50代)
・家、学校での上下関係が強い分化で育ったことによる、仕事の場でも一定の上下関係は必要という認識
・自分もやってきたからという理由で「行間を読む」ことを求める。そのため指示はざっくりでも伝わると考える
・「とりあえずやってみる」ことを評価する
どちらが正しい、どちらが間違っている、という話ではありません。
問題は、「当たり前」の基準が違うことに気づかないまま言葉を交わしたとき、誤解が生まれる点にあります。
よくある「すれ違い
ここでは協会が研修で受講者の方からお聞きした事例をご紹介します。
事例1「なんでそんなことまで聞くの?」(ベテランの戸惑い)
若手:「この資料、締切は明日の何時までですか?」
ベテラン:「明日って言ったら業務終了までって意味だろ?」
若手としては「遅れたら迷惑をかけるから確認したい」。
ベテランは「細かいことを聞くのは主体性がない」と受け取る。
このズレが積み重なると、ベテラン側のイライラが増し、
「何度言えば分かるの?」「そんなの自分で考えて」
という 指導の強さ が生まれ、ハラスメントの一歩手前の状態になります。
事例2「話が長くて結局何をすればいいの?」(若手の困惑)
ベテラン:「昔はね〜、こういうときみんなどう動いたかと言うと…」
若手:(要点を教えてほしい…)
ベテランは背景理解を深めてもらうため。
若手は必要な情報を早くほしい。
目的は同じなのに、伝え方の違いによって
「コミュニケーションが噛み合わない」というストレスが生じます。
そのストレスが蓄積すると、職場の雰囲気は少しずつ重くなり、
相談窓口が動き出す「火種」に変わっていきます。
事例3 「昔はこうだった」
「俺らの時代はもっと厳しかったよ」
「若いうちは苦労しないと伸びない」
ベテランに悪気がなくても、若手は
「価値観を押しつけられた」と感じやすいポイントです。
こうした文化的なギャップは、
パワハラの要件「優越的な立場を利用した言動」に該当しやすく、意図しないハラスメントが起きる典型例です。
上記のように、世代間ギャップがハラスメントの火種になる理由は
相手の背景を理解しないままコミュニケーションが進む
→ 一方は「普通だ」と思っていることが、相手には負担になる。
指導のテンポやスタイルが噛み合わず、感情的摩擦が増える
→ 「なんで分からないの?」が増えると指導が強まる。
意図しないハラスメントが起きやすい
→ ベテラン側は「教育のつもり」、若手側は「攻撃された」と受け取る。
ハラスメントは悪意だけで発生するわけではありません。
むしろ現場では「意図せず起こる」ケースのほうが多いのです。
世代間ギャップを超える3つのポイント
ポイント1「自分の普通は相手の普通ではない」と理解する
これだけで、職場のストレスが大きく減ります。
特に若手は質問するのが丁寧なコミュニケーションと教育され、
ベテランは質問は最低限がマナーだった時代で育っています。
まずは
「文化が違う」→「だから説明が必要」と受け止めることが大切です。
ポイント2 指導は「背景」+「目的」をセットで伝える
NG例:「明日までにやっといて」
OK例:「明日17時の会議に必要だから、16時までに仕上げてほしい」
若手が知りたいのは
なぜ必要か・どれくらいのクオリティが求められるのかです。
理由が分かれば、自発的に動けます。
ポイント3 若手にもベテランにも「安心して話せる場」をつくる
世代間ギャップの根本は、
「本音を出すとネガティブな状況になるかも」という不安です。
若手:質問したら「うざい」と思われそう
ベテラン:昔のやり方を否定されたくない
双方が安心して話せる環境を整えることで、ハラスメントの芽は確実に減ります。
*相談窓口においては、
若手もベテランも相談しやすい雰囲気を意識した設計にすることが重要です。
まとめ:ギャップを厄介者ではなく資源に変える
世代間の違いは、必ずしも悪いことではありません。
むしろ、
若手の論理的思考
ベテランの経験値
この両方が組織には必要です。
しかし、違いを理解せずに放置すれば、
そのズレはハラスメントの火種になります。
ハラスメント対策とは、悪意ある行為だけをなくすことではなく、
文化の違いで起きる小さな摩擦を、早めに言語化し、丁寧に扱うことでもあります。
世代間ギャップは超えられない溝ではありません。
違いに気づき、説明し合い、補い合うことで、むしろ職場はより強くなります。
その第一歩は、
「自分の普通は相手の普通ではない」と知ること。
ここを押さえるだけで、ハラスメントの芽は確実に減り、
コミュニケーションは驚くほど軽やかになります。
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【執筆者】
代表理事 金井絵理
【プロフィール】
2021年に一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会を設立し代表理事に就任。「ハラスメントを解消し品性のある組織つくりを目指す」を理念としている。上場企業や自治体などで職場のハラスメント対策研修を行い、現在はハラスメント対策研修ができる講師の養成や、ハラスメント相談員の養成に注力している。
日本キャリアデザイン学会 正会員/国立大学法人小樽商科大学商学部企業法学科卒業/早稲田大学大学院 経営管理研究科 人材・組織マネジメント モジュール卒業(MBA)
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