コラム
- 各種ハラスメント
スメハラ、なぜ「直接伝えない」は問題を長引かせるのか
「暑くなってきましたので、エチケットとして職場では汗を拭きとり、制汗スプレーなども用いて体臭に気をつけましょう」
朝礼などで全体に向けて発信するケースはよく見られます。
これは、職場を快適なものにするため全体への注意喚起として一定の効果があるかもしれません。
しかし、体臭が強く周囲の人が不快な思いをするスメルハラスメント(スメハラ)が発生している場合、当事者本人は自分が対象であることに気づいていないことがほとんどなのです。
気づかないから、体臭が放置されているわけです。
そうすると、今度は周囲がどう気づかせるかを悩み始め、次第に「あの人のニオイ、なんとかならないのか?」というような話題が雑談で交わされるようになります。
そのうち、「●●さん」ではなく「体臭が強い●●さん」というレッテルが貼られてしまうことも。
当事者の●●さんと、適切で建設的なコミュニケーションが図られにくくなる可能性もあります。
さらに、悪臭が原因となり周囲の人が体調を崩す場合もあります(体臭に含まれる物質による頭痛や吐き気等)。
また、業務への集中力が低下したりと、職場環境全体に影響が及ぶこともあるのです。
「本人に伝える」ことが改善の第一歩
スメハラ問題は、やはり本人に丁寧に伝えることが不可欠です。
もちろん、伝え方には十分な配慮が必要です。
以下のように、状況や対象者に応じた伝え方を工夫することで、過度な羞恥心や防衛反応を避け、建設的なコミュニケーションが可能になります。
1.香水・柔軟剤の匂いが強い場合
これは「体臭」ではなく、マナーやTPOの問題として伝えることが効果的です。
上司や人事担当者が周囲に聞こえない場所で個別に話すようにしましょう。
「香水は職場では控えてもらえるかな?服装を華美にしすぎないのと同じで、業務に集中する環境を大事にしたいんだ」
「香りは好みが分かれるし、苦手な人もいるから、なるべく控えてもらえると助かるよ」
このように、感情的にならず、あくまで職場のルールや配慮として伝えることがポイントです。
2.体臭が強い場合
体臭に関する話題は非常にセンシティブですが、健康面への配慮を切り口にすることで、相手を傷つけずに伝えることができます。
「ちょっと疲れているようだけど大丈夫?疲れていると体の臭いが普段と違って出てくることがあるから気になったんだ」
「念のため産業医に相談してみる?」
このように、健康を軸にした会話であれば、本人も受け入れやすくなります。
実際に、ストレスや疲労、食生活の乱れが体臭に影響することもあるため、必要に応じて医療や産業保健の支援につなぐことも視野に入れましょう。
3.生活習慣が原因となっているケースも
意外な原因として、一人暮らしを始めたばかりで洗濯や清潔管理に慣れていない場合もあります。
・洗濯後、濡れたまま長時間放置し生乾きのまま収納する
・洗濯槽のにおいの残留
・長期間洗濯していない服を着ている
こうした背景がある場合、生活スキルの支援も必要になるかもしれません。
メールではなく「対面」で、配慮をもって
このようなデリケートな内容は、メールやメモではなく、直接伝えることが原則です。
文面では受け手の感情を想像しにくく、意図がうまく伝わらないことが多いため、誤解や傷つきを招くおそれがあります。
本人から「私が臭いってことですか?」と聞かれた場合も、決して「はい、臭いです」と断定するような言い方はNGです。
繰り返しますが
「あなたの体調を心配している」
「職場全体の環境を良くしたい」
として伝えましょう。
あくまで「個人攻撃」ではなく、職場全体の調和を重視した声かけであることを伝え、相手の尊厳を守りながら対応する姿勢が求められます。
まとめ:スメハラ対応は「対話」の積み重ね
スメハラは、発生していることにすら本人が気づかず、また周囲も注意しにくいという、非常に対応が難しいハラスメントの一つです。
しかし、問題を放置すれば、職場環境全体に悪影響を与える可能性があります。
重要なのは、「指摘すること=ハラスメント」ではないということ。相手に配慮しつつ、適切な手段とタイミングで伝えることが、職場の健康と人間関係の維持には不可欠です。
私たち一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会では、こうした現場での伝え方や対応方法についても、研修や相談を通じてサポートしています。
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【執筆者】
代表理事 金井絵理
【プロフィール】
2021年に一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会を設立し代表理事に就任。「ハラスメントを解消し品性のある組織つくりを目指す」を理念としている。上場企業や自治体などで職場のハラスメント対策研修を行い、現在はハラスメント対策研修ができる講師の養成や、ハラスメント相談員の養成に注力している。
日本キャリアデザイン学会 正会員/国立大学法人小樽商科大学商学部企業法学科卒業/早稲田大学大学院 経営管理研究科 人材・組織マネジメント モジュール卒業(MBA)
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