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ハラスメントの3要件を説明しても、「どの程度ならOK?」と聞かれたら

企業の研修や相談窓口で、ハラスメントの基準について説明する機会は多くあります。

パワーハラスメントの3つの要件を伝え、具体的な事例を交えながら説明しているのに、受講者や相談者から

「でも、励まそうとして少し厳しい言葉を使った場合もアウトなんですか? どのくらいならOKなんですか?」

と聞かれることがあります。

こうした質問を受けたとき、相談員や研修講師としては「うーん」と言葉に詰まってしまうかもしれません。
なぜなら、ハラスメントを専門に扱う立場からは「どの程度ならセーフか?」という考え方自体、ハラスメントの本質とのズレを感じるからです。
そこで今回は、ハラスメントの法的な判断基準、言葉の使い方、そして相談を受けた際の適切な対応について考えてみたいと思います。

 

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ハラスメントは法に基づいた判断基準があり、例外はないと考えた方が良いと言うアドバイス

講師・相談員を担当されている方々はご存知の通り、「ハラスメントかどうか」は、個々の感覚や主観ではなく、法律やガイドラインに基づいて判断されますし、職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、厚生労働省の指針で次の3つの要件を満たす場合に該当するとされています。

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1. 優越的な関係を背景とした言動であること
→拒絶しにくいあるいはできない蓋然性の高い関係においての言動である
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
→厳しい指導でも、業務上適切であれば該当しない
3. 労働者の就業環境が害されること
→精神的・身体的な苦痛を与え、働く環境を悪化させる

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この3つの条件を満たす場合、意図がどうであれ「ハラスメント」と判断される可能性があります。

「励まそうとしていた」「相手のためを思って言った」は、判断基準とは関係ありません。
だからこそ、「どの程度ならOKですか?」という質問に、専門家は言葉を詰まらせることが多いのではないでしょうか。

言葉の使い方が誤解を生まないように説明する

研修や説明の場で、「ハラスメントの3つの要件」を伝える際に、「ただし、業務上必要かつ相当な範囲で行われる指導はハラスメントに該当しません」と補足しているのを耳にしたことがあります。

しかし、この「ただし」という接続詞は注意が必要です。
「ただし」は、直前の内容の例外を示す接続詞。
そのため、前述の3つの要件全体を否定してしまうように聞こえてしまいます。
そうなると、「業務上必要なら、どんなに厳しくてもパワハラにはならない」という誤解を与えてしまう可能性があります。
正しく伝えるには、「なお」や「もっとも」を使うのが適切です。

【NGの例】

「ハラスメントには3つの要件があります。ただし、業務上必要かつ相当な範囲で行われる指導はパワハラには該当しません。」

【おすすめの例】
「ハラスメントには3つの要件があります。なお、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指導は、パワハラには該当しません。」

 

「ただし」は、「ここから先は例外ですよ」というニュアンスを持つため、「業務上必要なら、どんな指導でも許される」 という誤解を生みやすくなります。
ハラスメントの基準が曖昧になるリスクがあるので、「なお」「もっとも」 を使う方が適切です。
ハラスメント防止を正しく伝えるためにも、適切な表現を意識したいですね。

なお・もっとも、を使っての3つの要件の説明

ここまでの内容を踏まえて、研修や相談の場面での具体的な伝え方を考えてみましょう。
まず、ハラスメントの3つの要件について説明するときは、以下のように伝えるとわかりやすくなります。

「ハラスメントに該当するかどうかは、次の3つの要件で判断されます。

1. 優越的な関係を背景とした言動であること
2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
3. 労働者の就業環境が害されること

この3つを満たす場合、ハラスメントに該当します。なお、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、ハラスメントにはあたりません。」

例えば、この説明をしたうえで、

「励まそうとして言葉が荒くなってしまった場合はどうですか?」

という質問を受けたときの適切な回答としては、次のように答える例があります。
「大切なのは『どの程度ならOKか?』ではなく、『相手がどう受け取る可能性があるか?』の視点です。

どんなに励ますつもりでも、相手が傷ついたり、業務に支障をきたしたりする場合は、ハラスメントに該当する可能性があります。
「受け手がどう受け取るか」すなわち、行為者の「意図」ではなく、「影響」が重視されます。」
このように伝えることで、行為者の「意図」ではなく、行為者の行為が及ぼす「影響」で判断されることを理解してもらいやすくなります。

ハラスメントの講習や相談の時間で、丁寧に説明することの大事さ

ハラスメントの判断は「どのくらいならセーフか?」ではなく、「行為者の発した言動の影響力や実際に与えた影響」という視点で考えることが大切です。

そして、その重要性を伝えるためには、適切な言葉選びも欠かせません。

「ただし」と「なお」、「もっとも」の違いのような細かい部分こそ、正しく伝えることで、誤解を防ぐことができます。

また、ハラスメントには基本的に例外はないという点も重要です。

「励ますつもりだった」「良かれと思って」などの意図があったとしても、相手が精神的な苦痛を感じ、就業環境が害される場合は、ハラスメントと判断される可能性が高いのです。

すなわち、「うちの業界の文化です」「うちの会社は創業時からそうなんです」(その企業の独自さ)を例外として考慮してハラスメントを判断するという考えよりも、リスクマネジメントの観点から法的観点に基づいて自分の言動をチェックすることを、私たち専門家はお伝えしなければならないでしょう。

例えば、「励まそうとしていた」という気持ちは理解できます。

しかし、法律上の判断では重要ではない、と認識することが大事です。多くの相談や質問はこの原則に当てはまることが多いため、常に意識しておくと適切な対応がしやすくなるでしょう。
職場の環境をより良くするために、研修や相談の場では、適切な情報と伝え方を意識していきたいですね。

 

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【執筆者】

相談員養成講座 特任講師 平澤 知穂

 

【プロフィール】

2000年にコーチとして独⽴、研修講師として活動開始。 2つの⼤学で通算14年間⼤学⾮常勤講師を務める。 企業や⾃治体、医療法⼈などにおいてハラスメント防⽌の活動を⾏い、2022年には個⼈のハラスメント年間相談対応が 600件を超えた。厚⽣労働省の設置するハラスメント相談窓⼝や、法務省の刑事施設における矯正教育関連プログラムの ファシリテーターを経験している。

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