コラム
- 相談
ハラスメント相談員のための「短い質問」の技術
ハラスメント相談を受ける際、相談者が心を開きやすく、安心して話せる場を作ることは、相談員にとって重要な役割です。
とはいえ、いざ相談の場になると、「もっと詳しく聞きたいけど、どこまで踏み込んでいいのか…」
「相手にとってわかりやすい質問ができているだろうか…」と悩んでしまい、気づかないうちに長い説明のような質問をしてしまうことはありませんか?
実は、「どのように質問するか」によって、相談者の話しやすさが大きく変わります。
特に、「短い質問」を意識することで、相談者の負担を減らし、より具体的な情報を引き出しやすくなるのです。
【長い質問がもたらすデメリット】
相談者は、相談に来た時点ですでに不安やストレスを抱えていることがほとんどです。
そんな状態で、面談の間中、長い質問を投げかけられると、精神的な負担が増し、疲れやすくなります。
例えば、
「先ほどあなたは、上司から毎日のように罵声を浴びて気持ちがボロボロになってしまった、その影響で体調もすぐれず、睡眠の質も落ちたような気がする、とおっしゃいましたが、あなたが職場で上司から受けた発言や行動について、どんな状況で、どういう言葉で、どんな気持ちになったのか、具体的に話していただけますか?」
このように長くて情報量の多い質問をされると、相談者は「うまく答えなきゃ」と気負ってしまったり、何を聞かれているのか分かりにくく感じて戸惑ったりすることがあります。
その結果、言葉に詰まってしまい、緊張が強まって、核心にたどり着くまでに時間がかかることもあります。
【短い質問の効果】
では、どうすれば相談者が話しやすくなるのでしょうか?
ポイントは、2つあります。
・「短く分けて質問する」こと
・「先ほど〜〜とおっしゃいましたが」を避けること
一緒に例を見てみましょう。
*ポイント1:「短く分けて質問する」こと
先ほどの長い質問を次のように変えてみるとどうでしょう。
1「どんな状況でその発言がありましたか?」
2「そのとき、どんな言葉をかけられましたか?」
3「その場で、どんな気持ちになりましたか?」
こうすると、相談者は一つずつ整理しながら話せるので、焦らずに自分の言葉で伝えやすくなります。
また、相談員としても、相談者の反応を見ながら進められるので、ペースを合わせた対応ができます。
*ポイント2:「先ほど〜〜とおっしゃいましたが」を避けること
文字で見ると明らかですが、
「先ほどあなたは、上司から毎日のように罵声を浴びて気持ちがボロボロになってしまった、その影響で体調もすぐれず、睡眠の質も落ちたような気がする、とおっしゃいましたが、」
この部分が半分以上のボリュームを占めています。
これを全て削除しても、会話の流れは問題なく進みます。
もし補足が必要であれば、
「先ほど、上司からの罵声の影響についてお話しされていましたね。そのことについてお聞きしてもいいですか?」
と一度区切ってから、先ほどの短い質問(1, 2, 3)に移ると良いでしょう。
【伝え方を工夫することで、相談者の負担を軽減】
聞き手にとって、話し手の発言量が少ないほうが「聞く負担」が軽減されます。
ただし、抑えておきたいのは、目的語を省略しすぎないことです。
「誰が、何を、誰に」などの要素を削りすぎると、ミスコミュニケーションが起きる可能性があります。例えば、「結末はどうなったのですか?」という質問では、何を指すのか曖昧になりやすく、誤解を招くことがあります。
「○○の件について、どのように感じましたか?」のように、主語や目的語を明確にすることで、相談者が混乱することなく、スムーズに話しやすくなります。
【相談の場面で使える「短い質問」】
ハラスメント相談では、相談者の気持ちを大切にしながら話を引き出すことが求められます。短く、シンプルな質問を意識するだけで、相談者の負担を減らし、安心感を与えることができます。
「そのとき、何がありましたか?」
「どんな言葉が印象に残っていますか?」
「その場で、どんな気持ちになりましたか?」
「その後、何か変化はありましたか?」
こんなふうに、相手が考えやすい形で質問をすることで、自然と話が広がっていきます。
【「短い質問」は相談者への配慮の表れ】
短い質問を心がけることは、単に話しやすくするだけでなく、相談者の気持ちを大切にすることでもあると思います。
長い質問は、相談員の知りたいことを優先しがちですが、短くシンプルな質問なら相談者のペースで話を進めることができます。
また、相談者が話しやすい環境を作ることで、安心して自分の気持ちや経験を伝えられるようになります。
その結果、より本質的な対話が生まれ、適切な対応へとつながっていきやすくなるでしょう。
【「安心して話せる」こと】
ハラスメント相談では、相談者が「この人なら安心して話せる」と思える環境を整えることが何より重要です。
そのために、質問の仕方を少し意識するだけで、対話の質がぐっと変わります。
・長い質問は避ける(情報を詰め込みすぎると、相談者が混乱しやすい)
・質問を短く分ける(一つずつ順番に聞くことで、相手が話しやすくなる)
・相談者のペースを尊重する(焦らせず、安心感を持って話してもらう)
次の相談対応で積極的に「短い質問」を試してみるのはどうでしょう?
ちょっとした工夫で、相談者の表情が和らぎ、話し方が変わるかもしれません。
ハラスメントの相談業務に携わっている人は、こうした質問にどのように答えればよいか考えを整理しておく必要があります。
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【執筆者】
相談員養成講座 特任講師 平澤 知穂
【プロフィール】
2000年にコーチとして独⽴、研修講師として活動開始。 2つの⼤学で通算14年間⼤学⾮常勤講師を務める。 企業や⾃治体、医療法⼈などにおいてハラスメント防⽌の活動を⾏い、2022年には個⼈のハラスメント年間相談対応が 600件を超えた。厚⽣労働省の設置するハラスメント相談窓⼝や、法務省の刑事施設における矯正教育関連プログラムの ファシリテーターを経験している。
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