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新入社員育成担当者が知っておきたい、ハラスメントと早期離職の防止
人事部などで新入社員育成を担当していると、配属から数か月が経った頃に現場の管理職やOJT担当者から次のような相談が寄せられることがあります。
「同期の他のメンバーは順調に業務を覚えているのに、彼だけが何度注意しても同じミスを繰り返す」
「少し注意しただけで深く落ち込んでしまい、その後まったく発言しなくなってしまった」
「指導者自身が手一杯で、イライラした態度が指導に出てしまい、関係が悪化している」
そして秋から冬にかけて、ある日突然、体調不良による休職願や退職届が人事部に届く。
こうした事態は珍しくありません。
現場からは「最近の若手は打たれ弱い」「指導員の教え方に問題がある」といった個人の性格や資質に帰する声が上がりがちですが、育成担当者がその解釈のまま放置してはいけません。
本質的な問題は、スキルの習得スピードではなく、「指導する側の伝え方」と「指導される側の受け止め方」のルールが社内で共有されていないことにあります。
受け入れ前の段階で、新入社員と指導係の双方に「受け止め方」と「指導の作法」を教育しておくこと。すなわち、ハラスメント対策を配属前に前倒しして実施することが、結果として指導の吸収効率を高め、無用な早期退職を防ぐことに繋がります。
現場で発生している指導不全の実態
配属後の現場では、新入社員側と指導側でそれぞれ次のようなすれ違いが起きています。
新入社員側:「業務の指摘」を「人格否定」と混同する
学生時代に厳しいフィードバックを受ける経験が少なかった新入社員は、「この計算が間違っているから修正して」という業務上の指示を、「あなたは仕事ができないダメな人間だ」という人格の否定として受け取ってしまう傾向があります。
事実と感情を切り離せないため、注意されるたびに自己防衛に入り、次のような行動をとります。
• 分かっていないのに「はい」と返事をしてミスを隠す
• 怒られることを恐れて相談のタイミングを失い、締め切り直前に業務を破綻させる
• 注意されたショックから立ち直れず、次の指示が頭に入らない
指導側(先輩社員):業務過多から「事実」ではなく「感情」で叱責する
指導を任される先輩社員の多くは、自身の個人目標や通常業務を削られないまま育成を担当しています。
そのため、同じミスが重なると「なぜこんなこともできないのか」という焦りが生じます。
最初は丁寧に教えていたとしても、余裕がなくなるにつれて「もっと責任感を持って」「何回言えば分かるの?」といった、具体性のない抽象的な言葉や強い語気での指導に変わりがちです。
指導側に悪気はなくとも、新入社員側から見れば「攻撃された」「パワハラを受けた」と感じる状態が作られ、双方が疲弊していきます。
なぜ「受け止め方研修」がハラスメント対策の初動になるのか
ハラスメント防止というと、多くの企業では「上司が部下に何を言ってはいけないか」というNGワードの教育に終始しがちです。しかし、それだけでは現場の管理職や先輩社員が「何を言ってもハラスメントと言われそうだから、指導をやめて放置する」という消極的な対応に走るだけです。
本当に必要なのは、新入社員側に「指導をどう受け止めるか」の枠組みを教えることです。
指摘を効率的に吸収させるための3つのポイント
新入社員研修のカリキュラムに、あらかじめ以下の行動原則を組み込んでおきます。
1.「作業」と「自分」を切り離す
「修正を求められているのは書類や手順であって、自分自身の人間性ではない」と明確に教えます。指導は業務上のエラーを取り除く作業であると理解させることで、過度な落ち込みを防ぎます。
2.理解の確認を自分の言葉で行う
指示を受けた際は、単に返事をするのではなく、「15時までにA社向けの資料を3枚作成する、という理解で合っていますか」と復唱させます。認識のズレをその場で埋める習慣をつけることで、ミスを未然に防ぎます。
3.相談のリミット(例:15分)を設定する
自力で調べて進まない場合は、15分以上悩まずに質問することをルール化します。新入社員が抱え込む時間を物理的に遮断します。
このように受け止め方のテクニックや基準を新入社員側に持たせることで、指導者からのフィードバックを適切に「(感情を過剰に入れない)業務改善のためのインプットデータ」として吸収できるようになります。
指導する側の「伝達ルール」を揃える
新入社員に受け止め方を教えるのと同時に、指導者となる先輩社員や受け入れ部署の管理職にも、客観的事実に基づいた指導の型を共有します。
1.「形容詞」を排除し、「行動」を指定する
「ちゃんとして」「もっと注意深く見て」といった指導は、受け手によって解釈が異なります。
・曖昧な指示: 「提出前によく見直して」
・行動の指示: 「提出前に、このチェックリストの5項目と照合してチェックマークを入れてから出して」
指導内容を行動ベースに落とし込むことで、感情的な対立を防ぎ、業務上の適正な指導として成立させることができます。
2.理由(背景)を必ず添える
「これやっておいて」という指示だけでは、新入社員は作業の重要性を判断できません。 「この数字は明日の役員報告で使われるため、1円単位まで合わせる必要がある」と理由を共有することで、細かな確認が必要である根拠を納得させます。
人事・育成担当者が構築すべき社内体制
研修を実施するだけでなく、人事部が現場の環境を整える必要があります。
1.メンター(相談役)とOJT(指導役)の切り分け
業務指導を行う先輩社員とは別に、利害関係のない他部署の先輩や人事部が定期的に面談を行う体制を作ります。実務を直接教えている先輩には言えない「初歩的な疑問」や「不安」を吸い上げる逃げ道を用意することで、孤立を防ぎます。
2.指導員の業務量の調整
現場任せにせず、育成を担当する社員の個人業務を公式に1〜2割減らす調整を部門長と握ります。指導員の心理的余裕を確保することが、不適切な叱責やパワハラ的言動の発生を防ぐ最大の予防策になります。
配属後に新入社員が伸び悩んだり、指導者と衝突したりしてから人事部が介入しても、関係修復には多大なコストがかかります。最悪の場合、「指導者が怖くて出社できない」という形で離職に至ります。
新入社員を受け入れる前のタイミングで、
・新入社員には「指導を業務改善として受け止める準備」をさせる
・指導側には「事実に基づき行動を指示する技術」を習得させる
この2つを連動させたハラスメント対策を早期に打つことで、新入社員は指導を過度に恐れずに吸収し、自立へのスピードを上げることができます。そして現場の指導員も不必要なストレスを抱えずに済みます。
ハラスメント対策は、単なる法令遵守やトラブル時の防御策ではありません。新入社員の戦力化を早め、指導の効率を高め、早期離職を未然に防ぐための実践的な人材育成投資として捉え、受け入れ計画に組み込むことが育成担当者に求められます。
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【執筆者】
代表理事 金井絵理
【プロフィール】
2021年に一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会を設立し代表理事に就任。「ハラスメントを解消し品性のある組織つくりを目指す」を理念としている。上場企業や自治体などで職場のハラスメント対策研修を行い、現在はハラスメント対策研修ができる講師の養成や、ハラスメント相談員の養成に注力している。
精神保健福祉士/日本キャリアデザイン学会 正会員/国立大学法人小樽商科大学商学部企業法学科卒業/早稲田大学大学院 経営管理研究科 人材・組織マネジメント モジュール卒業(MBA)
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