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「雑談」が怖い管理職たち——職場の会話を止めないために
「雑談ができない職場」が増えている
「最近、部下との雑談が減りました」
そう話す管理職が、ここ数年で急増しています。
その要因の1つには、ハラスメントへの過剰な恐れがあります。
「うっかりした一言がパワハラ・セクハラと受け取られないか」
「距離を詰めすぎたと感じられないか」
——そう考えるあまり、会話そのものを避けてしまうのです。
かつてのように「何気ない一言」が通用しにくい時代になりました。
性別・世代・働き方が多様化した今、同じ言葉でも受け止め方は人それぞれ。
結果として、「何を言えば正解か分からない」と会話をリスクと感じる管理職も少なくありません。
しかし、雑談の減少は、職場の信頼関係を脆弱にし、心理的安全性を損なう要因にもなります。
雑談は“仕事に関係ないおしゃべり”ではなく、組織に必要な「空気づくりの技術」なのです。
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雑談とは何か
そもそも「雑談」とは、どんな行為を指すのでしょうか。
多くの人が天気の話や最近のニュースなど、軽い話題を交わすことを思い浮かべるのではないでしょうか。
一見、それほど意味が内容に感じるかもしれません。
ただ、雑談の本質は、「情報交換」ではなく、「関係構築」にあります。
たとえば、
「今日は寒いですね」
——気温の情報ではなく、「あなたと今、同じ空間を共有している」というつながりの確認。
「このツール便利でしたよ」
——ツールの話ではなく、「あなたの仕事が少しでも楽になれば」という関心の表明
たったこれだけの会話でも、このような意味・効果があります。
相手の存在を認め、感情の温度をすり合わせる。小さな積み重ねが、信頼や安心を生み、組織を支える無形のインフラになります。
雑談が失われると起こる3つのリスク
1. チームの温度感が見えなくなる
雑談がない職場では、部下の小さな変化や不調を察知できません。結果として、モチベーション低下や離職の兆候を見逃すリスクが高まります。
2. 誤解が増える
相手の背景や価値観を知らないまま業務上のやり取りを重ねると、ちょっとした注意が「冷たい」「攻撃的」と受け取られることがあります。
3. 組織文化が希薄になる
新入社員や中途社員にとって、雑談は組織文化を体感する貴重な場です。会話がない職場では“社風”を感じにくく、帰属意識が育ちません。
雑談が「怖くなる」3つの理由
1. 正解がないことへの不安
「何を言えば安全か」が分からず、無難な沈黙を選んでしまう。
2. 過去の失敗体験
何気ない一言が誤解を生み、「セクハラ」「モラハラ」と指摘された経験があると、再び話しかける勇気を失います。
3. オンライン化による温度の把握
テキスト中心のやり取りでは、声や表情のニュアンスが伝わらず、誤解のリスクを避けて会話自体をやめてしまう傾向があります。
“良い雑談”と“危険な雑談”の違い
雑談には、職場をあたためるものと、壊すものがあります。
その差を分けるのは「関係の質」と「目的意識」です。
<良い雑談>
• 相手への関心と尊重がある
• 情報や感情を共有して、安心感をつくる
• 話すより「聴く」が多い
• プライベートに踏み込みすぎない
<危険な雑談>
• 外見・年齢・性別に触れる(例:「ちょっと太った?」)
• 家族・結婚・子どもなど私的領域を詮索する(例:「お子さんはどこの中学校なの」)
• 他者の評価や噂を口にする(例:「●●さん離婚したみたい」)
• 相手が笑っていても“内心の負担”に気づかない(例:下ネタは嫌な話題だが相手に合わせて笑っておく)
雑談は「単に仲良くなるため」ではなく、「働きやすい関係を保つため」に行うものです。
その目的を抑えて話題を選びましょう
良い雑談を生み出す3つのコツ
① 話題の「安全地帯」を知る
「何を話せばいいか分からない」という悩みに対しては、安全でポジティブな話題をいくつか持っておくと安心です。
• 季節や天気、体調の話
• 仕事での小さな工夫や成功体験
• 趣味・食・地域ネタなど、個人が共有しても負担にならない話題
たとえば「この前〇〇さんが言っていた方法、試したら便利でしたよ」といった一言も良い雑談です。
② 聴く姿勢を意識する
雑談の上手な人は、話すよりも“聴く”。
共感・質問・受け止めの3拍子を意識しましょう。
• 「そうなんですね」「なるほど」と一度受け止める
• 「それはどういう経緯でしたか?」と関心を示す
• 「〇〇さんはどう感じました?」と相手の主観を尊重する
聴くことで、相手が「この人は自分を理解しようとしている」と感じ、信頼が生まれます。
③ “場と時間”を選ぶ
雑談は、タイミングも重要です。
緊張感の高い場面ではなく、自然に話が生まれる空気をつくりましょう。
例えば
• 朝の出社直後や昼食後
• オンライン会議の冒頭のアイスブレイク
• チームミーティングの終了時
などが挙げられます
雑談を「設計」する意識を持つことで、個人スキルに頼らずに職場全体で会話文化を育てられます。
雑談を「業務の一部」として捉える
「雑談=無駄なもの」という固定観念がある方は、それを手放しましょう。
雑談は、心理的安全性・エンゲージメント・離職防止など、あらゆる人事課題と直結するマネジメント行動です。
最近では、リモート勤務企業が「朝の5分雑談タイム」を設けたり、オフィス内に“雑談スペース”を意図的に設計する例も増えています。
雑談を「偶然の産物」から「意図的な文化」に変える——それが、これからの組織運営に必要な視点です。
まとめ:雑談とは「相手への敬意を伝える行為」
雑談とは、相手を理解しようとする姿勢そのものです。
言葉の内容ではなく、「あなたと話したい」「あなたの存在を大切に思っている」というメッセージを、やわらかく届ける手段です。
「怖いから話さない」ではなく、
「どうすれば安心して話せるか」を考える。
その視点の転換こそが、成熟したコミュニケーション文化への第一歩です。
雑談の質が上がれば、ハラスメントの芽も減り、組織の温度は確実に上がります。
雑談はリスクではなく「信頼を育てる最小単位の行動」と言えるでしょう。
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【執筆者】
代表理事 金井絵理
【プロフィール】
2021年に一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会を設立し代表理事に就任。「ハラスメントを解消し品性のある組織つくりを目指す」を理念としている。上場企業や自治体などで職場のハラスメント対策研修を行い、現在はハラスメント対策研修ができる講師の養成や、ハラスメント相談員の養成に注力している。
日本キャリアデザイン学会 正会員/国立大学法人小樽商科大学商学部企業法学科卒業/早稲田大学大学院 経営管理研究科 人材・組織マネジメント モジュール卒業(MBA)
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