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「法的にセーフ」でも職場にダメージ? 不機嫌ハラスメントへの現場対応術

法的にはOK」でも、職場を蝕む「空気の圧」には対応が必要です

「最近、チームの雰囲気がなんだか重いんです」
ある管理職の方がふと漏らした言葉です。
メンバー間にトラブルはなし、業務上のミスもない。
でもなぜか、職場全体にちょっとした緊張感が漂っている。
よくよく話を聞いてみると、原因は「無言で機嫌の悪さをアピールしてくる人」でした。

こうした「不機嫌ハラスメント」は、明確な暴言や指示命令といった典型的なパワハラとは異なり、法的にはグレーゾーンであることが多いです。
しかし、影響はあなどれません。
周囲はその不機嫌を読み取ろうとして疲弊し、報連相を避けるようになり、やがてチームの連携が崩れ始めます。
 
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パワハラではなくても、職場の安全配慮義務は逃れられない

労働安全衛生法では、企業には“心身両面に配慮した安全な職場環境”を整える責任があるとされています。
ですから、けがや病気だけを指すものではなく、働きやすい環境を整える責任も含まれています。

不機嫌な態度が常態化した職場では、メンバーが萎縮し、本来の力を発揮できなくなるケースがあります。
「あの人に怒られるかも」
「また機嫌が悪そうだから、相談は後にしよう」
そんな思考が日常になってしまうと、職場の心理的安全性は著しく損なわれてしまいます。

つまり、「あの人、機嫌が悪いだけだから放っておけばいい」といった対応は、結果的に職場全体のメンタルヘルスや生産性にマイナスの影響を及ぼす可能性があるということです。

法的なハラスメントの定義は確かに重要です。
でも、それだけでは捉えきれない「職場の不調」があることも事実。
ハラスメント相談窓口の担当者や、現場の上司は働く人たちの環境を整える役割を担っているのではないでしょうか。

私が以前関わった企業でも、「明らかにパワハラではないけれど、チームの誰もが『疲れる存在』」というケースがありました。
職場の空気は、目に見えないからこそ見落とされがちです。
でも、そこに早めに目を向けられるかどうかで、その後の離職率やチームの健全性は大きく変わってきます。

「ムスッとメンバー」がいる部署で起きた離職ドミノの事例

ここで事例をご紹介します。
ある部署で、特に怒鳴ったり厳しい指導をするわけではないのですが、常に不機嫌そうな表情で、質問に対してもそっけない返事しかしない先輩がいました。

最初は
「忙しいのかな」
「集中しているのかな」
と周りも気にしていませんでした。

でも徐々に、その先輩がいる時間帯は質問が減り、チーム内の情報共有も滞るようになりました。

あるとき、その部署から立て続けに異動願いや退職者が出ました。
面談の機会を持って退職理由を聞くと「雰囲気が重くて、働きにくい」という声が出てきたそうです。
中には「『なんとなく』居心地が悪くて」といった声もありました。
直接的な被害はないけれど、職場環境が快適とはいえず、働きにくさに影響が出ていた例です。

この時、もし早い段階で「空気の変化」に気づいて対応していたら、結果は変わっていたかもしれません。
実際、上司は相談を持ちかけられていて、その時の相談対応をふりかえり、最初の「違和感」の声を見過ごしていたことが大きな分岐点だった、とコメントをされていました。

「気づける組織」になるための、小さな実践と対話の始め方

では、どうすればこのような『空気のハラスメント』に対応できるのでしょうか。
私が提案したいのは、「定期的な空気の棚卸し」です。

具体的には「定期的に雰囲気の変化をみんなで言語化(対話)する」という取り組みです。
月1回でもいいので、チームで“働きやすさ”や「話しやすさ」について共有する時間をつくると良いでしょう。

形式張らなくて構いません。
「最近、この会議の発言が少ないな」
「以前より雑談が減ったかも」
そんな小さな変化やちょっとした違和感・心の引っかかりを、自由に話せる場を持つことで、不機嫌な理由が明かされたり、行為者が自分の言動の影響がどのようなものかを知る、という気づきになったり、チームでその理由が共有されやすくなります。

また、不機嫌さが目立つ人に対しては、あくまで「環境への影響」という視点から、相談対応者や上司から対話をしてみるのもおすすめです。
「みんな少し話しかけづらそうにしているけれど、何かあった?」
といった、柔らかく、でも率直なフィードバックが、変化のきっかけになることもあります。
「不機嫌に見える人」も実は悩みを抱えていたり、無自覚だったりすることが多いものです。
お互いの状況を理解し合う機会があれば、改善への大きな一歩になり得ます。

こうしたことを鑑み、相談を受ける際も「具体的に何をされたか」を聞き取りながら、「チームの雰囲気はどう変わったか」といった質問を投げかけてみると背景も含めてわかるので良いと思います。
感情面や環境面にも耳を傾けることで、見えてくる問題があります。

唯一無二の完璧な解決策はありませんが、「職場の空気も大切な経営資源」という視点を持つことから、変化が始まると思います。
小さな違和感を扱える組織は、本当に働きやすい職場を作っていけるのではないでしょうか。
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【執筆者】

相談員養成講座 特任講師 平澤 知穂

 

【プロフィール】

2000年にコーチとして独⽴、研修講師として活動開始。 2つの⼤学で通算14年間⼤学⾮常勤講師を務める。 企業や⾃治体、医療法⼈などにおいてハラスメント防⽌の活動を⾏い、2022年には個⼈のハラスメント年間相談対応が 600件を超えた。厚⽣労働省の設置するハラスメント相談窓⼝や、法務省の刑事施設における矯正教育関連プログラムの ファシリテーターを経験している。

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