コラム

  • 相談

「行為者への事実確認」のポイント

ハラスメントの相談を受けた後、行為者に事実確認を行うのは非常に重要なステップです。
ただ、この対応を誤ると、状況を悪化させるリスクもあるため、慎重かつ丁寧なアプローチが求められます。
行為者への事実確認は慎重に進める必要がありますが、最終的にはハラスメントかどうかの判定は懲戒会議などで行われる場合があります。
そのため、担当者としては正確な事実確認が不可欠です。

 

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1. 伝え方

例えば「○○さんが私に対して意地悪をしてきます」といった相談を受けた際、行為者として名前が挙がった相手に事実確認を取るときに「意地悪をしていると聞きましたが、本当ですか?」と直接尋ねるのは避けた方が良いでしょう。

こうした聞き方では、相手が防衛的になり、事実確認が難しくなるだけでなく、相談者との信頼関係にも影響が出る可能性があります。
ポライトネス*な姿勢で事実を丁寧に聞く姿勢が大切です。「何が起きているかを確認したい」と伝える方が、相手の協力を得やすいのではないでしょうか。

*ポライトネス理論:「相手を尊重しつつ、自分の言いたいことを伝える」方法を考える理論

2. 相談員の役割と懲戒会議への情報共有

事実確認を行った後、最終的にはハラスメントかどうかを判断するのは懲戒会議や専門的な判断を行う役員の役割です。
相談窓口担当者は、調査を通じて得た事実や当事者の証言など、必要十分な情報を整理し、判断を仰ぐことが求められます。

例えば、聞き取った具体的なエピソードや状況を正確に整理し、「いつ・どこで・誰が・何を・どのように行ったのか」といった詳細を報告書にまとめます。
こうした報告書が、懲戒会議での正しい判断や再発防止策の策定に直結します。そのため、情報共有の際には中立性を保ち、偏りのない形で整理された情報を提供するよう心がけましょう。

3. 中立的な立場で話を進める

事実確認では、どちらかの立場に立っているように見えないことが重要です。例えば、こうしたフレーズを使うと良いかもしれません。
「○○さんとのやり取りで、何か困ったことや気になったことはありませんか?」
「最近、職場で少し雰囲気が変わったと感じることはありますか?」
このような聞き方をすることで、相手の話を引き出しつつ、中立的なスタンスを保てます。

4. 行動や状況に焦点を当てる

ハラスメントの事実確認では、「何をしたか」ではなく、「どのような行動があったのか」を具体的に聞き出すことがポイントです。たとえば、次のような質問をしてみると、状況が把握しやすくなります。
「具体的にどのような会話がありましたか?」
「その時、どんな表情や言葉が使われていましたか?」
このように、行為者の「言動そのもの」に焦点を当てることで、相手が事実を思い出しやすくなります。

5. 確認は個別に行う

以前、こんなケースがありました。
それは、相談者と行為者の両方を同じタイミングで呼び出すケースです。これでは、相談者も行為者も感情的になり、冷静な事実確認ができなくなります。
このような状況を避けるためにも、相手が安心して話せる環境を整えることが大切です。

6. 感情に左右されない

事実確認中、行為者が感情的になったり、自分の立場を強く主張したりすることがあります。こうした場面では、感情に引きずられるのではなく、「なぜそのように感じたのか」や「その背景にはどんな出来事があったのか」を丁寧に掘り下げる姿勢が大切です。

 

気をつけたいポイント

ハラスメント対応は非常にデリケートな業務ですが、ひとつひとつの行動が信頼関係を築く土台になります。
「相手の話を丁寧に聞く」
「言葉の使い方に注意する」
「自分の感情をコントロールする」
といった基本を忘れずに進めてみると良いでしょう。こうした細かな配慮が、事実確認を円滑に進める鍵となるはずです。

私はこのような対応を心がけて実践して、相談者にも行為者にも公平な態度を示し、トラブルに発展させないよう努めてきました。
ハラスメント対応は、決められたルールを守り役割に従い行いますが、それは単なる手順ではありません。
私たちが「相手をどのように見ているのか」を問い直し、「正しさ」と「優しさ」の両立を模索する営みだと感じています。相談窓口でのひとつひとつの応答は、小さな積み重ねかもしれません。しかし、その積み重ねが、人と人の信頼関係を修復し、未来の職場をより良いものへと変えていく力になるのだと思います。
ひとりひとりが職場で起きる問題に真正面から向き合うことで、「この場所で働いてよかった」と思える人が増えることを願っています。そして、皆さんが相談窓口で紡ぐ言葉や態度が、その願いの実現に必ずつながります。
どうか、目の前の事案に誠実に向き合いながらも、広い視野を持ち続けてください。「目の前の人をサポートすることは、組織全体を救うことにつながる」という信念を胸に、丁寧な対応を続けていただけたら嬉しいです。
ぜひ皆さんの現場でも、この視点を活かしていただきたいという思いで書きました。

 

【参考】ポライトネス理論

ポライトネス理論(Politeness Theory)は、ブラウンとレビンソンが提唱した、対人コミュニケーションにおける「礼儀」や「配慮」の重要性を示す理論です。この理論では、相手の「フェイス(面子)」を守ることが円滑な関係を築く鍵とされています。
フェイスには、他者に認められたいという「ポジティブフェイス」と、自由を侵害されたくないという「ネガティブフェイス」の2種類があります。
ポライトネス理論では、これらを守るための戦略として、直接的な指示、配慮を含む提案、暗示的な表現などの方法を活用します。ビジネスでは、部下へのフィードバックや指示、顧客対応などで、相手のフェイスに配慮したコミュニケーションが信頼構築に役立ちます。

 

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【執筆者】

相談員養成講座 特任講師 平澤 知穂

 

【プロフィール】

2000年にコーチとして独⽴、研修講師として活動開始。 2つの⼤学で通算14年間⼤学⾮常勤講師を務める。 企業や⾃治体、医療法⼈などにおいてハラスメント防⽌の活動を⾏い、2022年には個⼈のハラスメント年間相談対応が 600件を超えた。厚⽣労働省の設置するハラスメント相談窓⼝や、法務省の刑事施設における矯正教育関連プログラムの ファシリテーターを経験している。

 
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