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「私は悪くない」とかたくなになる部下への対応法

職場でトラブルや指摘があった際に、
「私は悪くない」「自分は間違っていません」
と主張する人が少なくありません。
 
上司としては冷静に状況を整理したいだけなのに、
本人は「責められた」と感じて心を閉ざしてしまう。
 
このような 防御的な反応 は、個人の性格だけではなく、
近年のストレス社会や評価プレッシャーの強さとも関係しています。
 
しかし一口に「かたくな」と言っても、
「成果を出していない人」と「成果を出している人」では背景が異なります。
 
今回はそれぞれの心理と、現場でできる対応を整理してみましょう。
 
 
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成果を出していないのに「私は悪くない」と言う人への対応

背景にあるのは 自己防衛 と 恥の感情

成果が上がらないにもかかわらず、
「自分はちゃんとやっている」「周囲のせいだ」と言い張るタイプ。
 
このケースの多くは、怠けているのではなく、
「失敗を認めることが怖い」という心理から自己防衛をしています。
 
「努力を否定された」「自分は役に立っていない」と感じると、
人は自分を守るために 正当化 や 反発 という形で反応します。
 
そのため、「反省しろ」と強く迫っても、心はより硬く閉ざされてしまいます。

対応のポイントは「非を問う」より「未来を描く」

防御的な部下に対しては、過去を掘り返すより、
次の一歩をどう踏み出せるかに焦点を当てましょう。
 
「今回はうまくいかなかったけれど、次にチャンスがあったらどう動いてみたい?」
「原因を探すより、できる方法を一緒に見つけてみよう。」
 
未来志向の対話をすることで、相手は 責められている 感覚から抜け出し、前向きな気持ちを取り戻せます。
 
また、結果が出ていなくても努力を承認することも忘れずに。
 
「ここまではきちんと取り組めていたよね。
あとはこの部分を整えれば、もっと良くなりそうだね。」
 
できていない部分 ではなく できている部分 を土台に話すことで、自己防衛が少しずつ解けていきます。

成果を出している人が「私は悪くない」となるケース

成果が 免罪符 になる危険

次に多いのが、成果を出している人がかたくなになるケースです。
 
「結果を出しているのだから、注意される筋合いはない」
「自分のやり方が正しい」
と信じて疑わない。
 
営業でトップ成績の社員や、専門知識に長けた技術者などに見られる傾向です。
上司もつい「結果を出しているから仕方ない」と目をつぶりがちですが、
これが続くと、組織内に 特例ルール が生まれます。
 
その結果、周囲が萎縮し、
「結局、結果を出していれば何をしてもいい」という誤ったメッセージが浸透してしまうのです。

対応のポイントは「個人」から「チーム」へ視点を移す

成果を出している人には、正論でぶつかるよりも、
視点を広げる関わり方が効果的です。
 
「あなたのやり方が素晴らしいのは分かっている。
それをチームにどう共有すれば、他の人の成果も上がると思う?」
 
このように リーダーシップ を託す形で伝えると、
本人は「注意された」ではなく「期待された」と感じやすくなります。
 
また、評価面談では「成果」と「関わり方」を別軸で伝えましょう。
 
「数字の面ではとても助かっています。
一方で、周囲が意見を出しにくくなっているという声もあります。
あなたの強みを活かして、チーム全体をより動かしやすくできると理想的です。」
 
成果を認めたうえで行動面をフィードバックすることで、
本人のプライドを守りながら、改善を促すことができます。

共通して使える「かたくなな人」への3つのアプローチ

感情を受け止める

「そう感じたんですね」と受け止めるだけで、相手は否定された感覚から解放されます。
 
影響を共有する

「あなたが悪い」ではなく、「その行動で周囲がどう感じたか」を話す。
評価ではなく 影響 をテーマにすると対話がしやすくなります。
 
期待を伝える

「あなたに期待している」「この役割を任せたい」と伝える。
責めではなく信頼のメッセージが、変化へのモチベーションを生みます。

管理職が陥りやすい落とし穴

かたくなな部下を見ると、つい「分からせよう」と力が入ります。
しかし、説得や論破は逆効果です。
 
焦って言葉を重ねるよりも、
「次に話し合える関係を残す」ことを目的にした方が、結果的に改善が早くなります。
 
また、
成果が出ていない人に厳しく
成果が出ている人に甘い
 
この不公平は、職場の信頼を一瞬で壊します。
どちらにも共通して必要なのは、人としての尊重と安心感です。
 
それからもう一つ。「そこまで気を遣う必要があるのか?」と管理職が部下を放置するケースが散見されます。
このケースに対しては「気を遣ってください」ということが回答になります。
 
部下は管理職の家族でも友人でもありません。たまたま同じ会社に入社して、同僚になった他人とも言えます。
他人同士ですから、気持ちよく働くためには気を遣うことは最低限必要なことです。

組織としてできること

個人対応だけではなく、組織全体としても 防御を生まない 仕組みづくりが求められます。
 
・フィードバックを「査定」と切り離して実施する
・行動面の貢献を人事評価に組み込む
・管理職間で事例を共有し、対応のブレを防ぐ
・「失敗から学ぶ文化」を発信する
 
「間違えても大丈夫」「話しても大丈夫」という空気が広がれば、
人は自然と防御ではなく協働を選ぶようになります。

まとめ:防御を解くのは 正しさ ではなく 安心感

「私は悪くない」と言い張る部下に、正しさを突きつけても人は変わりません。
 
成果を出していない人には、 失敗しても大丈夫 という安心感を。
成果を出している人には、 あなたの力をチームに生かしたい という期待を。
 
かたくなさの裏には、「認めてほしい」「信じてほしい」という願いがあります。
その願いを見抜き、安心と期待をもって関わることが、
最終的に最も生産性の高い組織をつくる道となるでしょう。
 
 

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【執筆者】

代表理事 金井絵理

【プロフィール】

2021年に一般社団法人日本ハラスメントリスク管理協会を設立し代表理事に就任。「ハラスメントを解消し品性のある組織つくりを目指す」を理念としている。上場企業や自治体などで職場のハラスメント対策研修を行い、現在はハラスメント対策研修ができる講師の養成や、ハラスメント相談員の養成に注力している。

日本キャリアデザイン学会 正会員/国立大学法人小樽商科大学商学部企業法学科卒業/早稲田大学大学院 経営管理研究科 人材・組織マネジメント モジュール卒業(MBA)

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